米中の対立は2018年夏に始まった制裁関税の応酬以降、エスカレートする一方である。この摩擦の中で、存在がクローズアップされているのが、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術、本社・広東省深セン)である。米司法省は1月下旬、ファーウェイとCFO、関連企業を、イランへの違法な金融取引や企業秘密の窃取の疑いで起訴したと発表した。同社はもはや、2019年の世界経済の火種となっている。  
世界に広がる警戒感
 売上高6036億元(約10兆4366億円、2017年の実績)、世界の従業員数18万人に上るこの巨大企業に対し、米国は2010年ごろから警戒感を高めてきた。その警戒感は米トランプ政権下で極大化し、さらにファイブアイズと呼ばれる英語圏の主要国や、日本を含む世界各国に波及している。1月下旬現在、世界の主要国で明らかになったファーウェイに対する直接的・間接的な措置は以下のとおりだ。
(出所・各国の発表資料や報道を基に東洋経済作成)
 米国をはじめ、世界各国でファーウェイに対して高まっている懸念の論点は、主に3つある。
#1サイバースパイ行為に関与しているのではないか
#2中国共産党政府の意図を受けて企業活動をしているのではないか
#3企業間の技術競争において、知的財産権侵害のような不正な行為をしているのではないか
 これら3点の根底にあるのは国家安全保障リスクへの不安だけでなく、5G(第5世代)通信規格時代におけるテクノロジー覇権に対する各国の強い危機感である。

 このうち【#1】について、ファーウェイは「顧客はわれわれの施設で、自ら安全性を検証できる。もし情報を盗むバックドアのような過ちがあれば、秘密にできるはずもない。そもそもわれわれは通信設備業者で、データは顧客の通信事業者が持っているものだ」(グローバル・サイバー・セキュリティー責任者のジョン・サフォーク上級副社長)と疑惑を全面的に否定した。

 「関与していない」ことを証明するのは至難であり、この説明は疑惑を晴らすには不十分だ。だがサイバースパイが機密性・専門性の高い行為である以上、「関与している」ことの証明も、見識ある専門家の検証がない限り十分ではない。東洋経済は現時点までに、ファーウェイのサイバースパイ疑惑を具体的に検証できる専門家に取材できていない。

 一方で【#2】と【#3】については、ファーウェイや公的機関が開示しているさまざまな資料と、ファーウェイと直接的な関わりを持つ人々へのインタビューを通して、従来ほとんど伝えられていない興味深い事実にたどり着けた。前述の問いに対する明快な答えとはならないまでも、有益な材料となりうる事実を、このメーリングブックは6回にわたって読者に届ける。
「任と対談できないでしょうか」
ファーウェイ本社で日本メディアの取材に答える任正非氏
(撮影:梅谷 秀司)
 ファーウェイに疑惑の目が向けられる理由の1つは、創業者の任正非氏が中国人民解放軍の技術将校だったことである。任氏自身が海外メディアの取材をこれまでほとんど受けず、当時の立場や職務内容について外部に語ってこなかったことも手伝って、「ファーウェイは元軍人による軍関連企業」という見方は国際的に定着している。

 中国の経営者は全体的に、ひとたび成功し企業と自身の名が知れわたると、極端に露出を控える傾向があるが、その中でも任氏はよくも悪くも神秘のベールをまとった経営者である。その任氏が1月中旬、日本を含む国内外メディアの前に姿を現した。深セン本社で行われた任氏の会見に、記者は特別な思いを持って参加した。そこには次のような経緯がある。

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