「東野圭吾 最強小説家の秘密」をご購読いただき、ありがとうございます。
 「第1章 独占ロングインタビュー 東野圭吾が語る「雪とペン」」をお届けいたします。
 どの作家が最高か? 文学性や娯楽性を基準に、小説家に優劣をつけることは不可能だろう。では、どの作家が「最強」か? 現代ニッポンにおいては、ミステリー小説家の東野圭吾氏であると断じてよいだろう。

 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』でたたき出した世界販売1200万部という数字は、村上春樹氏の『ノルウェイの森』とほぼ並び、21世紀に入って最も売れた日本の小説だ。数々の映画化・舞台化作品も国内外で相次いでヒット。とくに東アジアでは、エンターテインメントにおける「東野経済圏」をつくり出している。

 そんな最強小説家は、もう1つのユニークな顔を持つ。趣味が高じ、私財を投じてスノーボード大会を創設したのだ。成功者の道楽、と軽視するなかれ。東野杯は、日本のスノーボード・ライダーたちのキャリアを支え始めている(第2章に詳細)。

 お金をいかに使うかは、いかに稼ぐかと同様にその人の信念と価値観を物語る。抜きんでたプロフェッショナルの秘密は、お金の使い方・稼ぎ方双方に隠れているといえるのだ。近年、メディアのインタビューを遠ざけてきた東野氏が東洋経済独占で、スノーボードと仕事について赤裸々に語った。
(インタビューは2019年1月に実施)
——東野さんが創設した大会「スノーボードマスターズ」は今年2度目の開催です。歴史はまだ浅いながら、規模とレベルは国内指折りという評価です。
 大々的にやることが目的ではないんです。「スノーボードにはこんな楽しみ方がある」ということを伝えたい。それを目的に、手探りでやっている草大会です。

 普通の人にとってスノーボードを見る機会って、せいぜい4年に1回(冬季五輪)ですよね。しかも滑っているところではなく、ハーフパイプで空中を飛んでいるところじゃないですか。スノーボードクロスという滑走競技もありますが、そこで注目されるのも誰が先にゴールするか。滑っているところではありません。

 それはある面、仕方ないことではあるんです。例えば100メートル走で、走っているときのウサイン・ボルトの足がどう動いているかを見る人なんていない。スノーボードも同じことです。

 それでも、「スノーボードって本当は滑るスポーツなんだよ、そこが面白いんだよ」ということは何としても伝えたい。これを伝えないと、スノーボードをやろうという人は増えませんから。今のイメージのままでは、子どもに「スノーボードをやりたい」と言われても、親は「そんなスポーツ、危ない」って思ってしまう。

 子どもに水泳を習わせている親って多い。でも家族で海水浴に出かけて、「あの岩まで、お父さんについて来い!」って親子3人で泳ぐなんて場面は、現実にはほとんどありません。それがスノーボードならそういう楽しみ方ができる。しかも何歳になっても滑れて、若い頃の仲間とジジイになっても滑ることができる。スノーボードは家族や友人と一生楽しめるレジャーなんです。こういうことにぜひ、目を向けてほしかった。
——開催費用のうち、東野さんはどの程度支出しているのですか。
 ほぼすべてです。ありがたいのは、開催スタッフをみんなが手弁当で務めてくれていることです。人員まで費用を出して集めるとなったら、とんでもない費用規模になっていました。
——どういった人がスタッフをしているのでしょう。
 それはもう、スノーボードが好きな人たちです。そこに僕はすごいなと感心しているんです。みんな冬場は各地のゲレンデで、バラバラに活動しています。インストラクターだったり、スキー場の運営に関わるいろんな仕事だったり。みんなそれぞれの本業があるので、本音を言うと2月とか3月に開きたいんですが、できないんですよ。

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